シェーン・ドリアンとビラボンがコラボ、革命的ウエットスーツBillabong V1

シェーン・ドリアンとビラボンがコラボ、革命的ウエットスーツBillabong V1

0
シェア

2010年にサーフィン中溺れかけ、死と直面したビッグウエイブ・レジェンドのシェーン・ドリアンは、それ以来、50フィートを超える波に乗る自信を失ってしまっていた。ところが、そのシェーンが、再び世界最大級の波にチャレンジしている。それというのも、ある画期的な発明品が、彼のビッグウエイブに対する不安感を取り除くことに成功したからなのだ。ビラボンウエットスーツとムスタング・サバイバル・コーポレーションとの共同開発を経て、シェーンは世界初となる瞬時に膨張する浮き袋を内蔵したウエットスーツを開発した。パラシュートに付いているようなリップコードを強く引くと、ウエットスーツを着ている者を海の底から瞬く間に海面へと浮上させるという前代未聞のウエットスーツの登場である。

その革命的なウエットは今のところ“ビラボンV1”と呼ばれており、Vは“Vertical Ascent(垂直上昇)”のVであり、数字の“1”は海抜1フィートを示す。

ハワイ島コナ出身のシェーンは、世界でもっともビッグウエイブ・ライディングに精通したサーファーであるといわれており、過去18ヶ月の間にいまだかつて誰もチャレンジしたことない驚嘆に値する波を次々と制覇してきた。しかし、ビッグウエイブ界での王者の座をゆるぎないものにしたのは、皮肉なことにシェーンが喫したあるワイプアウトだった。

その悪夢のライドは、2010年2月、悪名高きマーベリックスにシェーンがはじめてチャレンジしたときの出来事だった。

「波の選択をまちがえて、それはひどいワイプアウトをした」とシェーンは回想する。「あのワイプアウトはひどいなんてもんじゃなかった。2つの波が通り過ぎるまで上がってこれなかったのさ。溺れる寸前だったよ。あれ以来、飛行機に、タブを引っ張るとCO2のカートリッジによって瞬時に膨らむ救命胴衣があるでしょー あんな風に作動する浮き袋を内蔵した物があったらいいなと考えるようになったんだ」

シェーンは、ビラボンUSAウエットスーツ部門のプロダクトマネジャーであるハブ・ハバードに詳細をメールし、それがきっかけで新プロジェクトがスタートしたという。

ハバードがリサーチをはじめると、ムスタング・サバイバル・コーポレーションというドライスーツや浮上装置をはじめ、各種救命道具で知られた製造会社の名前が浮かんできた。ムスタング社で扱っている商品のほとんどは水上で使用される物なのだが、アメリカ軍用に頑丈なポリウレタン製浮き袋を開発した経験もあり、ビラボンのために新しい浮上装置を開発することとなった。

デサインコンセプトは、日に日に変貌を遂げていった。「私もそうだったのだが、初期の段階では、みんなの考えはウェットの胸の部分に浮き袋を装着し、浮上した際に顔が持ち上がるようにしたほうがいいというものだった」とハバードは語る。「ところがシェーンは、そうじゃない、と反論してきた。彼の意見では、浮上したあともサーフボードに乗ってパドルしなくてはならないから、というものだった。よって必然的に装置は背中に装着されることになり、さらに膨らんだ状態でもウェットを着ている者の顔が上を向くようにデザインされた。

ムスタング社製の膨張装置が手に入ったいま、ハバードはエクスプレス・ウエットスーツ・リペア社のバーバラ・マウと共に試作品の製作にはいった。

「ウエットスーツのデザイン自体は意外にシンプルなんだ」とハバードは説明する。「ウエットの背中の部分に大型のジッパーが取り付けられた浮き袋を収納するポケットを加え、それを膨張装置とCO2のカートリッジに取り付けた。この装置は肩甲骨のあいだに置かれているんで、着ている本人はそこに装置があることも忘れてしまうだろう。引っ張るコードは肩の上を通り上胸部にハンドルがきてる。それをパラシュートのように引っ張ると、浮上しはじめるって仕組みさ」

穏やかな海や波の小さな日にシェーンは試作品をテストし、彼の望む安全性が確立されるまで改良に次ぐ改良がビラボンV1に施された。そのおかげで、これまで乗ってきた大波よりもさらに巨大な波にチャレンジする自信をシェーンは取り戻した。

「実際に使ったのは、今年の冬、サザンカリフォルニアの沿岸から100マイル沖に位置するコルテスバンクで使ったのが最初」とシェーンはその日を思い出しながら言う。「その日、波はチョーでかくて、馬鹿でかい波に乗ったらひどいワイプアウトをくらって、おそろしいぐらい引きずりこまれたんだ。そのとき、今こそテストする最高のタイミングだっておもった。コードを引っ張った瞬間、パニックを起こしそうになってた精神状態が、一気にリラックスモードになった。まったく泳ぐ必要なかったね。装置に任せて浮上してきた」

全世界にビラボンV1の威力を知らしめる結果になったのが、今年の3月15日、シェーンと少数からなるビッグウエイブの精鋭部隊が記録的サイズのマウイのジョーズに立ち向かったセッションであった。ジョーズは難易度の高い波のため、これまではジェットスキーのアシストがないと不可能な波といわれてきた。その日、シェーンは素晴らしい57フィートの波を捉え、2011ビラボンXXLグローバル・ビッグウェーブ・アワーズのモンスターパドル賞とモンスターチューブ賞の二つの部門を制覇した。シェーンが史上最大のチューブにプルインしその中でつぶされたとき、彼は波に翻弄され深い海底へと引きずり込まていった。そのとき、彼はビラボンV1の膨張装置を作動させた。すると彼は水中から飛び出すように浮き上がり、それからサーフボードに乗ってチャンネルを目指してパドルをはじめた。その際、彼の背中にはっきりとこぶのようなものが盛り上がっているのが確認でき、その場に居合わせた多くのフォトグラファーたちが一部始終を目撃した。

シェーンの新装置に関する問い合わせがあとを絶たないようだが、ビラボンからメディアに一切説明はなく、ただいま特許申請中ということだけわかっている。とりあえず申請が米国特許局に受理され、あとは結果待ちのようだ。ビラボンはV1をマスマーケット用に販売する予定はいまのところないようだが、ビッグウエイバーのエキスパートたちには用意する予定があるという。

「なによりもまず、命を救うためにこのウエットは作られた」とシェーンは言う。「本当に仲のいい友達を3人、いや、4人ビッグデイに亡くしている。みんな溺死だよ。これが完成したからには、世界屈指のビッグウエイバーたちである僕の仲間たちに早く使ってもらいたい気持ちでいっぱいだよ。ほんとうに仲のいいグループがあるんだけど、彼らはみんなその場にいたくて、そしてみんな巨大波にチャージしビッグウェーブの歴史を塗り変えたがってるんだけど、彼らにもっと安全に攻めてもらいたいんだ。一日の終わりにはみんな家族のもとに無事帰ってほしい。だから、この飛躍的な発明が完成したことに、感動に近い興奮をおぼえている」

同じく、ビラボンのスタッフも、近年稀にない画期的な商品を世に送り出すことができて胸の高鳴るおもいでいっぱいだそうだ。

「このプロジェクトに参加できたことを光栄におもっている」とハバードは語る。「なんといっても、これは、シェーン、私、バーバラ・マウ、ムスタング・サバイバル、それにグローバル・ビラボン・ウエットスーツのチームメンバーたちの努力の結晶である」

(堅木)”

コメントなし

返事を書く